9ー1
友人は、多彩な煌きを持って、散ってゆく。
他人の顔を持つ男は、中心で、冷たい笑顔を向けてくる。
<己を知らぬ者は居ないだろう>
出遅れる者だけが、受け止めて、考え込んでしまう。
限り無い放物線は、渦を描き、生まれ出た支点へと、戻ってくる。
有意義な音の羅列が、無意味な会話を、形作る。
形式化される友情が、愛憎の間を通過し、分類される。
どこかが必ず壊されている方向指示器は、異性を遠避け、同性を愛に、溺れさせる。
夜の騒音は、夜明けの静けさを孤独に追いやるための引き立て役に、他ならない。
酔いは、目覚めることを前提に、個人の忘却と第三者の嫌悪を玻璃の囲みで、促成栽培する。
煙にむせぶ老人は、髪を酒に濡らす少年の肩を頼りに、戻って行く。
無数の恋人達に開かれる墓地では、
溢れる光に浮かれ出す死人を寝かしつけるのに、おおわらわだ。
金持ち息子を担ぎ上げる男達が、
美女を挟む女達が、
鉄仮面の舞台裏でそれぞれの方角へ消える三叉路。
昼になるまで朝が来ない街の中、人々は、歌と踊って、煙草を零す。
先走る感情が、繋ぐ腕と絡む脚に隠れて、秘所への脇道を、真っ直ぐ進む。
磨く玻璃の底に映る姿態を、反射させる眼底へ焼き付けて朝の活力とする異端者、酒売り男。
酒の美臭に鼻を曲げ、渦巻く煙に眼を寄せる、無言の男。
裸の下半身が垂れ流す排泄物を、消え終わる氷と一緒に、拭き集める色付きの下着。
小人の給仕女は、捻り出す暇の半分を酒売り男の股間で費やす。
横たわる黒光りの鏡の陰で繰り広げられる甘い誘惑は、
切り捨てられる果実の腐敗臭となって立ち登る。
鼻の悪い少年は、戻る数だけ、買い物へ走らされる。
扉を叩く度に値を吊り上げる果物屋。
生臭い氷を届ける魚屋。
酒屋で一度詰め替えられる酒は、
途中少年によって薄められ、
更に裏口で倍になり、
酒売り男へ手渡される。
<今夜の酒は香りが強いな>
<そんな事は有りません>
<氷が溶けやすいな>
<踊り子の髭を見つめて居ましたね>
小人の給仕頭と客との遣り取りは、女主人の寝惚け眼を輝かせ、叫ばせる。
<誰、誰、誰。
うるさくするのは誰。
もう今夜はこれでお終い。
さあさあ、あたしの明日を祈って、ぐっと空けとくれ。
さあ行ったり行ったり、明日お出で、明後日お出で。
地獄にするもしないも、あんた方次第さねえ>
もうじき酒売り男に吸わせる予定の脂肪色の胸を震わせる声は、
踊り子の脚を一層早く振り上げさせ、酔い潰れる客を追い立てる。
<ほらほらほら、あたし達の夜が来るよ。急いで 急いで 急いで>
八分の七拍子を叩く女主人の掌が、
黄色から桃色を通り越し、赤く痛々しい色合いとなって夜の一角を築き終える。
渦巻く煙を押し上げ押し上げ、ぼんやりする明かりを追いやる光が、
水色の斜線となり酒場の中を染めてゆく。
動きを止める人形達が、首をうなだれて裏口男の調整を待ち続ける。
股間節のむくれた踊り子、
足が崩れ出した給仕頭、
細い指先を黒く燃やした煙草売り、
毎日一番客の酔いどれ男を、八日振りに手相見の老嬢と替える頃、
裏口男にとっての夜が来て、酒場の朝が始まる。
<急いで 急いで 急いで。
あたし達の朝だよ、朝が来るよ。
ほら ほら ほら>と女主人の手拍子が小刻みに鳴り出し、手相見が灯りに火を入れる。